滋賀県蒲生郡日野町 馬見岡綿向神社
日野祭 5月2日~3日
①猪は綿向大神の神使馬見岡綿向神社の境内に猪の像が。
猪は綿向大神の神使なのだそうです。
その言われは次のとおり。
欽明天皇6年(545年)、蒲生野の豪族・蒲生稲置三麿と山部連羽咋が綿向山麓に狩にやってきましたが
4月(新暦五月)だというのに雪が降り出し吹雪となりました。
雪が止んだのち、ふと見ると大きな猪の足跡がありました。
二人が足跡を追っていくと綿向山山頂にいたり、綿向大神の化身の白髪の老人があらわれて、「この山の頂に祠をたてて祭れ」といいました。
ふたりは言われたとおりに社殿を建てて祭りました。(大嵩神社)
ここから猪は綿向大神の神使とされています。
大嵩神社は綿向神社の奥宮で20年ごとに式年遷宮しています。
②摩利支天・護王神社の神使も猪猪を神使としている神社や寺はほかにもあります。
まず摩利支天の神使が猪とされていますね。
あと和気清麻呂を祀る護王神社には狛猪が置かれています。
これは和気清麻呂が流罪となって大隅国に流されていく途中、猪が和気清麿を道鏡が差し向けた刺客から守ってくれたという伝説に基づくものでしょう。
(道鏡が和気清麻呂に刺客を差し向けたというのは史実ではないと思います。)
③鹿の夏毛の斑点は謀反人に降られた塩の喩え?神使とされている動物には、ほかにも、鶏(伊勢神宮・石上神社)・猿(日吉大社)・虎(朝護孫子寺・鞍馬寺)鹿(春日大社)などiいろいろあります。
このうちの鹿については、このブログの中で何度かお話ししていますが、謀反人の比喩だと考えています。
鹿には次のような伝説があります。
雄鹿が雌鹿に「全身に霜が降る夢を見た」と言った。
雌鹿は「霜だと思ったのは塩で、あなたは殺されて全身に塩が振られているのです」と言った。
翌日、雄鹿は漁師に打たれて死んだ。
(日本書紀/トガノの鹿)
昔、謀反の罪で死んだ人は死体に塩を振られることがあり、鹿とは「謀反の罪で殺された人」を比喩的に表現したものではないかとする説があります。
摂津国風土記に同様の話がありますが、こちらでは雄鹿は「全身に雪が振り、背中にススキが生えた」夢をみたとあり
雌鹿は「雪は殺されて塩が振られている、薄は背中に刺さった矢」と答えています。
鹿の夏毛には白い斑点があります。これを霜や雪に喩えたのでしょう。

謀反の罪で死んだ人は死後、怨霊となったことでしょう。
怨霊とは政治的陰謀によって不幸な死を迎えた人のことで、昔の人々は疫病の流行や天災は怨霊の仕業で引き起こされると考えていたのです。
そして陰陽道では荒ぶる神は十分に祀ればご利益を与えてくださる神に転じると考えました。
春日明神の神使・鹿とは、怨霊となった人の霊が慰霊されて神になった、その神の使いなんでしょうね。
とすれば猪もまたもともとは怨霊であった人が、慰霊されて神になった、その神の使いなのではないかと考えられますね。
先日、高台にある柏原八幡宮を参拝し階段を下りてきたところで、ボランティアガイドをされている方からこんな話をお聞きしました。
「柏原八幡宮の本殿には猪の彫刻があります。猪は莫だと考えられていたので・・・」
いや~、「お話し聞いてから参拝したらよかった」と思いました。
もう一度階段駆け上がって本殿の彫刻見てきたかったんですけど、友人が「早く百毫寺へ行こう」といいますし、時間なかったんですよね。
それにしても「猪は莫」。これはありえると思いました。
④獏はパンダ?
莫とは「夢を食べる」とされる伝説上の動物で、中国の文献には次のように記されています。
貘屏賛・・・鼻はゾウ、目はサイ、尾は牛、脚は虎に似ている。
爾雅 釈獣・・・白豹
説文解字・・・熊に似て黄黒色、蜀中(四川省)に住む。
爾雅 郭璞注・・・熊に似て頭が小さく脚が短く、黒白のまだらで、銅鉄や竹骨を食べる。
説文解字注・・・・今も四川省にいる
獏とパンダは同一視されていたそうです。
説文解字には黄黒色とありますが、虎のようにはっきりした黄色ではなく、淡いクリーム色のことだそうです。
そして説文解字には「今も四川省にいる」爾雅 郭璞注には「竹骨を食べる」とあります。
四川省に住んで竹を食べる黒白まだらの動物といえばパンダ(ジャイアントパンダ)ですね。
ただし、貘屏賛には「獏は鼻はゾウ、目はサイ、尾は牛、脚は虎」とあって、パンダとは全然ちがう動物のようです。
⑤パンダはなぜ獏と同一視されたのか?
獏は悪い夢を食べてくれるという俗信があります。
つまり獏は陰を陽に転じてくれる聖獣というわけですね。
陰陽の象徴といえば太極図です。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File%3AYin_yang.svg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/17/Yin_yang.svg よりお借りしました。
作者 Gregory Maxwell [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で太極図は白と黒の図で構成され、白は陽、黒は陰をあらわします。
パンダは黒白まだら模様の動物なので、陰陽をあらわす動物、または陰を陽に転じさせる動物だと考えられ、獏と同一視されたのではないでしょうか。
⑥莫はマレーバク?古代中国にはマレーバクが生息していましたが、絶滅したそうです。
このマレーバク、みごとな白黒モノトーンなんですね!
動画お借りしました。動画主さん、ありがとうございます!マレーバクは「鼻はゾウ、目はサイ、尾は牛、脚は虎に似ている。」に近いですね。
先日テレビで、「想像上の動物獏に似ているから、マレーバクという名前がついた」と言っていましたが、私は逆だと思います。
獏はマレーバクをモデルとして創作された動物、またはマレーバクそのものではないでしょうか。
そう思う理由は見事な黒白モノトーンの毛です。
動画折しました。動画主さん、ありがとうございます。古事記に次のように記されています。
昔、天地がまだ別れず、陰陽も分かれておらず、混沌として卵の中身のように固まっていなかったが、薄暗い中にきざしがあった。
やがて清らかな陽気がたなびいて天となり、重く濁った陰の気が滞って地となった。(天地開闢)マレーバクは子供のころは黒白がまだらになんですが、成長すると白黒にくっきりわかれた柄になります。
この様子はまるで古事記に記された天地開闢のようではありませんか。
夢を食べる獏とはマレーバク、もしくはマレーバクをモデルとして想像されたものであり
マレーバクの白黒モノトーンの柄が太極図を思わせるため、「悪い夢(陰)を食べて、よいこと(陽)に転じさせる」と信仰されたのではないかと思います。
マレーバクは木の葉や果実を食べますが、竹をたべるとは聞きません。
爾雅 郭璞注に「熊に似て頭が小さく脚が短く、黒白のまだらで、銅鉄や竹骨を食べる。」とあるのはやっぱりパンダだと思います。
中国でマレーバクが絶滅してしまっため、マレーバク同様白黒模様のパンダが獏だと考えられたではないかと思います。

⑦茶色(黒っぽい)の猪は陰、雪をかぶった白い猪は陽?猪は鼻が長い点がなんとなくマレーバクに似ていますし、
猪の子供のまだら模様はマレーバクの子供のまだら模様を思わせます。(色はちがいますが)
ここで①の伝説を思い出してください。
本来ならば茶色の毛の猪の成獣ですが、伝説では吹雪だったということで雪をかぶって真っ白になっていたのではないでしょうか。
陰陽では白は陽、黒は陰です。
つまり雪をかぶらない茶色(黒っぽい)の猪は陰だが、雪をかぶった白い猪は陽、ということではないでしょうか。
そのあと綿向山山頂に現れた綿向大神も白髪だったとありますが、雪をかぶって真っ白になった猪はこの白髪の神の神使なのでしょう。
十二支の順番は子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥で亥(猪)は十二支の一番最後です。
亥=猪=莫とすれば、十二支の一番最後で「悪夢を食べて、陰を陽に転じる」というのはとても理に適っているように思えます。
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