奈良市福智院町 福智院
撮影 2015年4月4日
●藤原広嗣の乱福智院を創建したと伝わる玄昉は、奈良時代に橘諸兄政権で重用された人物でした。
当時の権力者といえば藤原氏ですが、藤原不比等の四人の息子(藤原四兄弟)が相次いで天然痘にかかって死亡してしまいました。
そのため、一時的に藤原氏の勢力は衰えて、738年に橘諸兄が右大臣となったのですね。
橘諸兄は吉備真備・玄昉を重用し、藤原宇合の長男・藤原広嗣(式家)は大宰府に左遷されてしまいました。
藤原氏と橘氏の政権争いと見ていいでしょう。
そして玄昉は吉備真備とともに橘氏側の人物だったということです。
左遷された藤原広嗣は黙ってはいませんでした。
740年、藤原広嗣は「天地による災厄の元凶は吉備真備と僧正・玄昉であるので、二人を処分するべきである。」という上奏文を朝廷におくったのです。
『今昔物語集』や『源平盛衰記』には、玄昉が光明皇后と密通し、これを広嗣が咎めたとの旨が記されています。
『元亨釈書』『興福寺流記』『七大寺年表』『扶桑略記』には玄昉が藤原宮子(聖武天皇の母親)と密通したとあります。
藤原広嗣は玄昉が密通しているので天地に厄災が起きたと訴えたのかもしれませんね。
しかし訴えは聞き入れられず、藤原広嗣は大宰府で挙兵しますが破れて、処刑されました。 (藤原広嗣の乱)
●藤原広嗣を祀る神社をなぜ鏡神社というのか
奈良の新薬師寺の隣に藤原広嗣を祀る鏡神社があるんですが、藤原広嗣を祀る神社をなぜ鏡神社というのでしょうか。
氷室神社 枝垂れ桜 南都鏡神社 『鷹乃井と鏡池の謎』 ← こちらの記事にも書いたのですが~
額田王が大海人皇子に送った次の歌を鑑賞してみてください。
あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る/額田王
(紫草の生えた野で、野守に見られてしまうではないですか。あなたが私に袖を振っているのを。)天智天皇・大海人皇子(のちの天武天皇)・額田王は三角関係だったとする説があります。
すると野守とは「いけない男女関係を見張る人」の比喩であるように思われます。
そして能に「野守」という演目があり、春日野の鬼が持っている鏡のことを「野守の鏡」というとあります。
玄昉と藤原宮子の密通を咎めた藤原広嗣はまさしく野守だといえるでしょう。
そして野守の鏡とは「いけない男女関係」を映し出す鏡なのではないでしょうか。
そういうわけで藤原広嗣を祀る神社を鏡神社というのではないかなあ、と推理しています。
ただ、本当に玄昉と光明皇后や藤原宮子が関係を持っていたかどうかはわかりません。
奈良時代や平安時代の藤原氏には平気で嘘をついて他人を貶めた人物が大勢います。
藤原氏の家訓として「他人は騙してナンボである」というのがあるのではないかと思うくらいです。
なので玄昉と光明皇后や藤原宮子が関係を持っていたというのは広嗣の嘘なのでは、と思ったりはしますが~。
●玄昉、藤原広嗣の怨霊に殺される?745年、藤原仲麻呂が権力をもつようになり、今度は玄昉が筑紫の観世音寺に左遷されました。
746年、玄昉は筑紫で亡くなりました。
玄昉の死は藤原広嗣の怨霊の仕業であると考えられたようです。
『元亨釈書』には、空中から手があらわれて玄昉を連れ去り、後日、頭のみが興福寺に落ちていたが、これは藤原広嗣の怨霊の仕業であるとの旨が記されています。
去年の春、福智院を訪れたとき、午後5時を回っていて、門は閉められていました。
そんなわけでこのときは参拝はできなかったんですが、以前に参拝をしたことがあります。
お寺の方がお寺の由緒や仏像について丁寧に説明してくださり、おさがりのパインアメをくださいました。(ありがとうございました!)
御本尊は大きな地蔵菩薩座像(像高2.73m、台座から光背までの高さは6.76m)で、その膝元に写真が置かれていました。
どなたの写真なのかと寺の方に伺ったところ、玄昉の写真だということでした。
そして次のようなことを教えてくださいました。
玄昉は大変すぐれた僧侶でしたが、当時権勢を振るっていた藤原氏にねたまれて大宰府の観世音寺に左遷になりました。
その観世音寺で藤原氏に寝込みを襲われて亡くなりました。玄昉は体がバラバラに切り離されて落ちたところに供養塔をたてたのが頭塔だと伝わっています。
玄昉の命日である6月18日には今でも福智院と頭塔で玄昉忌を行ってます。
↑ 頭塔はこんなピラミッド形の構造物です。奈良時代につくられたものです。
奈良市高畑にありますよ~。なんと、福智院には玄昉は藤原広嗣の怨霊に殺されたのではなく、藤原氏に殺されたと伝わっているのです!
怨霊に殺されたというのは信じがたいですし、藤原氏に殺されたと考えたほうが理に適っているように思えます。
橘諸兄政権ののち権力を掌握した藤原仲麻呂が、橘諸兄政権の重臣だった玄昉を暗殺したのかも?
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