
久安寺がある池田を舞台にした落語があります。
『池田の猪買い』
「冷え気(淋病)に悩む男が『冷え気には猪(しし)肉が効く』と聞き、池田の狩人の元を訪ねました。
男が『新しい肉が欲しいので射ちに行ってほしい』と頼むと、狩人は男を連れて山にいき、猪を討ちました。
男は狩人が打った猪を『あの猪は新しいか』と聞きました。
狩人が猪を鉄砲の台尻でたたくと、猪は鉄砲の音で目を廻していただけだったので、目を覚まして逃げていきました。
その様を見て狩人は『どうじゃ。あの通り新しい。』と言いました。もしかして池田には猪の神に対する信仰があったのではないでしょうか。
そして『池田の猪買い』という落語は、その猪の神に対する信仰を背景に作られたものではないかと思うのです。
猪の神とは妖怪・鵺を退治したとされる猪早太のことです。
猪早太とは干支の戌亥(乾)を擬人化したものだとする説があります。
猪=亥
早=隼人=宮廷で犬の鳴き声をまねて警護していた=犬=戌 というわけです。
平家物語にはこの近衛天皇が妖怪・鵺におびえたという話が記されており、この妖怪・鵺を退治したのが猪早太でした。
そして平安時代、久安寺において賢実上人が鳥羽天皇の皇后の安産祈願を行ったところ、皇后は近衛天皇をお産みになられたという伝説があります。
ここから地名が『不死王村』となり『不死王村』が転じて『伏尾村』になったとされます。
近衛天皇は17歳で崩御されていて不死王という名にふさわしくありません。
不死王とは『猪早太』のことで、久安寺は猪早太を祀る寺なのではないでしょうか。
猪に対する信仰といえば、宮崎県・高千穂神社に伝わる「鬼八伝説」を思い出します。
鬼八は足がたいへん強く、昼間は辺り一帯を荒らしまわり、夜になると窟に隠れました。
御毛沼命は鬼八を退治することにました。
鬼八は夜になると窟に隠れてしまうので、命は沈もうとしていた夕陽を呼び戻して鬼八をまちぶせ、そこへ現れた鬼八を剣で切って殺しました。
命は鬼八の死体をばらばらにして地中に埋めましたが、鬼八は一夜のうちに蘇ってもとの姿に戻り、土地を荒らしまわりました。
今度は田部重高という者が鬼八を殺し、頭を加尾羽(かおば)に、手足を尾羽子(おばね)に、また胴を祝部(ほうり)の地にそれぞれ分葬したところ、鬼八は蘇生しなくなりました。
ところが、鬼八は死んだ後も地下で唸り声をあげ、霜を降らせて村人を困らせました
村人は鬼八の祟りを恐れ、鬼八申霜宮という祠をたててその霊を祀り、また毎年16歳の生娘を人身御供としてさしだし、慰霊しました。
天正年間(1573-93年)に生娘のかわりに猪がささげられるようになり、猪掛祭(12月3日)と呼ばれるようになりました。
神前に猪をささげ、『鬼八眠らせ歌』を歌いながら笹を左右に振る『笹振り神楽』を舞うと、鬼八は神となり、霜害を防ぐ霜宮に転生すると信仰されました。鬼八を慰霊する祭において猪がささげられるのは、鬼八が猪の神であるためだと思います。
死んだ猪を鬼八の神前に並べることによって、鬼八に「自分はすでに死んでいる」ということを思い知らせるのではないでしょうか。
そして夜になると窟に隠れ、死体がバラバラにされても一夜のうちに蘇る鬼八とは、太陽を神格化したものだと思います。
猪は陽炎を神格化した摩利支天の神使とされているので、太陽そのものというよりも、太陽の光を神格化したものだと言ったほうがいいかもしれません
太陽の光は夜になると隠れてしまいますが、翌朝には蘇ってまた光り輝きます。
すると久安寺の不死王もまた太陽の光のことであり、猪の姿をした神・猪早太として信仰されていたのではないかと思えてくるのです。
落語に登場する男は冷え気を患っていました。
猪の肉が冷え気に効くと考えられたのは、猪が太陽の光の神なので暖かく、猪の肉を食べると体が温まると考えられたためではないでしょうか。
久安寺 躑躅 『妖怪・鵺と猪早太』 の記事において、私は次のように記しました。
①猪早太は干支の戌亥(いぬい/乾)を表すとする説がある。
②猪早太が退治した鵺は頭が猿とあり、干支の申または羊申(ひつじさる/坤)を意味しているのではないか。
③八卦では乾は全陽、坤は全陰を表し、乾と坤は正反対の符である。
④陰陽道では陰が極まると陽に転じると考える。
⑤祟り神は、手厚く祀りあげることで強力な守護神となる。
⑥猪早太(戌亥=乾)とは、鵺(未申=坤)が陽に転じたものなのではないか。
⑦近衛天皇の死は崇徳の呪詛のせいだと噂されていた。ここから近衛天皇がおびえた妖怪鵺とは崇徳の生霊だと考えられる。
崇徳は保元の乱で敗れて讃岐に流罪となり、死後、怨霊になったと考えられていました。
久安寺はこの崇徳の怨霊を慰霊する寺であり、崇徳の怨霊を祀り上げて守護神としたのが猪早太だと思います。
久安寺・・・大阪府池田市伏尾町697
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